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太宰治と山崎富栄の出会い

dazai_syasin.jpg 旧三鷹駅 

玉川上水            旧三鷹駅

 

富栄さんは大正八年東京の本郷で生まれた。父の晴弘氏はお茶の水に日本で最初の美容学校を設立した人で、その学校の後継者になる事を期待されていた。昭和19年暮れ、富栄さんは三井物産社員奥名修一氏と結婚したが赴任先のマニラで召集され戦闘で行方不明となった。戦後21年の春に義姉と共に鎌倉の長谷で美容院を開いたが、その年の11月に三鷹に移りミタカ美容院に勤め夜は進駐軍専用のキャバレー内の美容室で働く様になった。富栄さんが太宰と知りあったのは、22年3月27日の夜である。同じ職場で働く今野貞子と言う友人から紹介されたのである。三鷹の町を飲み歩いていた太宰と屋台で今野さんと知り合い、その後、27日の夜屋台のうどん屋で飲んでいたとき、二人で太宰に会い、富栄は太宰と運命の出会いをしたのである。実は、富栄の夭折した次兄も太宰と同年で弘前高校の卒業生であったのだ、兄の話でも聞けるかと今野に紹介して欲しいとたのんでいたのである。3月27日と言うと、太田静子さんから懐妊をうち明けられた頃である。
相談を受けた静子には「よかったねー・・・」とは言ったが太宰の内心は複雑であった、師の井伏の媒酌で美智子と結婚したときに約束した「家庭を大切にします。嘘は言いません。・・・」
その約束を破った事になる。

富栄さんはその前の年の秋から「千草」の真向かいの2階(大家野川氏)に下宿していた。千草は太宰が学生の頃から贔屓にしていた小料理屋である。富栄と太宰は急速に親しくなり富栄の日記によると5月頃結ばれたようである。太宰は千草の2階を仕事場として富栄の看護を受けながら精力的に執筆を続けていた。富栄の代筆のお陰でもある。美智子もよく代筆していた。
頻繁な来客にこまめに応対し、よく働く女性であった。太宰からスタコラさッちゃんと呼ばれていたが学生時代からの綽名だったらしい。印税、原稿料の前借、仕送り(井伏氏宅に送られていた)にでも家計は苦しく富栄の貯金も身を切るようになった。また妻の美智子の回想記には「電気も付けられず、ローソクで暮らしていた・・」と記されている。酷い浪費家ではあったが周りのジャーナリスト、青年文士等の饗応にほとんど使っていたのである。

11月に治子が生まれ太田静子も最初は兄弟に助けられていたが家計が苦しく弟を連れて千草を訪れ治子の養育費の請求をした。太宰に言われるとおり律儀な富栄は一万円を為替で送金した。但し毎月の契約ではなかったようである。この頃から富栄は嫉妬心が燃え上がり、太宰に「私も子供が欲しい・・」と言い出し太宰は「お前には修治の修が残っているじゃないか・」と慰めていた。

喀血を仕出したのもこの頃で富栄の懸命な看護で医者嫌いの太宰の腕に、ビタミン注射を打つ毎日で在った。太宰の人生の総決算とも言うべき「人間失格」も一部千草で代筆を手伝ったり、太宰が最も信頼していた古田 晁(ふるた あきら、1906年1月13日 - 1973年10月30日)、出版人、筑摩書房の創業者)の奇遇先大宮へも一緒に同行した。「人間失格」は23年5月12日に完成している。新潮社の野原一夫の話によると、入水の前日の6月12日に、一人で大宮市の宇治病院の古田 晁を訪ねたのも事実で、生憎古田 晁は不在で病院長の娘の顔見知りの節子さんに合っている、グレーのズボンに白いワイシャツで、確か下駄履きだったと記憶していると語っているが、とすれば、太宰が玉川に入水した時と同じ服装である。死の前日に、何故、三鷹から遠く大宮まで古田さんを訪ねたのであろうか。最後の暇乞いに行ったのだろうか?古田も「俺に会っていても、生きることは無理だったろう」と語っている。
 

 富栄は、そんな孤独な晩年の太宰治にとって、最も完全な母であり、姉であり、妹であり、侍女であり、看護婦でもあった。静子との仲、治子の出産と富栄を苦しめたが心の片隅では在り難さと愛情が在ったのでは思われる。結局、二人は出会いの言葉「死ぬ気で恋愛をして見ないか・・」と太宰の死を漂わす言葉が一直線に玉川へと流れた感じがする。勿論妻子ある男に惚れたのだから父親にも怒られ、「すぐ帰宅しなさい」とも言われて居たが妻に成りきった一途な富栄の気持を動かす何者でもなかった。昭和23年6月13日深更、近くに流れる玉川上水に身を投じたのである。太宰は「人間失格」全編の発表を待たずして逝ったのである。

昭和21年秋 銀座「ルパン」で坂口安吾と語る。安吾の隣にいた織田作之助と楽しく語る。この写真が遺影となった。
太宰が「BAR・ルパン」でくつろぐこの有名な写真には、ちょっとしたエピソードがある。撮影者の林忠彦氏によると、このとき林氏は
織田作之助(右写真)を撮っていたそうだ。するとベロベロに酔っぱらった太宰が「おい、俺も撮れよ~。織田作ばっかり撮ってないで、
俺も撮れよ~」と絡んでくるので、“うるさい男だな”と思いつつ、最後の1本のフラッシュバルブで太宰をついでに撮ったそうだ。


現:永塚葬儀社
山崎富栄と親しくなった1947(昭和22)年9月頃から、彼女の下宿先の野川家2階も仕事場にしていました。太宰最後の日、ここから2人で玉川上水へ向かいます。

そして最期の日記となった23年6月13日に彼女は次のように記す。

遺書をお書きになり御一緒につれていっていただく
みなさん さようなら(中略)奥様すみません
修治さんは肺結核で左の胸に二度目の水が溜り、このごろでは痛い痛いと仰言るの、もうだめなのです。
みんなしていじめ殺すのです。
いつも泣いていました。
豊島先生を一番尊敬して愛しておられました。
野平さん、石井さん、亀島さん、太宰さんのおうちのこと見てあげて下さい。園子ちゃんごめんなさいね。(後略)
23年9月「愛は死と共に」山崎富栄著 石狩書房刊、(この本は太宰の友人、文壇からの反対で出版が一時拒否されていた。)

●妻に宛てた太宰の遺書(抜粋)

「美知様 誰よりもお前を愛していました」
「長居するだけみんなを苦しめこちらも苦しい、堪忍して下されたく」
「皆、子供はあまり出来ないようですけど陽気に育てて下さい。あなたを嫌いになったから死ぬのでは無いのです。小説を書くのがいやになったからです。みんな、いやしい欲張りばかり。井伏さんは悪人です。」

●富栄が死の当日、同じ愛人の太田静子に宛てた手紙

「太宰さんは、お弱いかたなので、貴女やわたしや、その他の人達にまで、おつくし出来ないのです。
わたしは太宰さんが好きなので、ご一緒に死にます。
太田様のこと(※治子出産のこと)は、太宰さんも、お書きになりましたけど、後の事は、お友達のかたが、下曽我(※太田の家)へおいでになることと存じます。」

●富栄の公式遺書

「私ばかり幸せな死にかたをしてすみません。
奥名(※4年前に戦場で行方不明。新婚生活は12日間しかなかった)と少し長い生活ができて、愛情でも増えてきましたらこんな結果ともならずに
すんだかもわかりません。
山崎の姓に返ってから(※まだ奥名籍だった)死にたいと願っていましたが・・・
骨は本当は太宰さんのお隣りにでも入れて頂ければ本望なのですけれど、それは余りにも虫のよい願いだと知っております。
太宰さんと初めてお目もじしたとき他に二、三人のお友達と御一緒でいらっしゃいましたが、お話しを伺っております時に私の心にピンピン触れるものがありました。
奥名以上の愛情を感じてしまいました。
御家庭を持っていらっしゃるお方で私も考えましたけれど、女として生き女として死にとうございます。
あの世へ行ったら太宰さんの御両親様にも御あいさつしてきっと信じて頂くつもりです。
愛して愛して治さんを幸せにしてみせます。
せめてもう一、二年生きていようと思ったのですが、妻は夫と共にどこまでも歩みとうございますもの。
ただ御両親のお悲しみと今後が気掛りです。」


 2人の命日“桜桃忌”にちなみ、墓前にはサクランボが。側面に戒名と“富栄”の文字があったが、世間体を
はばかってか享年も命日も彫られていなかった。







 普段は淵無しのめがねを掛けた凛とした美人といわれたが太宰が眼鏡を掛けた女性は嫌いというので眼鏡をはずしていた。千草の階段を転がるようにガタガタと音を立てていたという。







蛇足
6・19日の「桜桃忌」に再び記事をアップしたいと思いますので見て頂ければ幸甚でございます。




参考文書

「愛は死と共に」山崎富栄 23年9月石狩書房

「太宰治論」奥野健男

「回想太宰治」野原一夫

「太宰治」福田清人

「小説太宰治」檀一雄

「人間太宰治」山岸外史

「無頼派の祈り」亀井勝一郎ほか多数
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    荒野鷹虎

    Author:荒野鷹虎
    何時までも心は若者でありたい!。
    (男性)道産子、AB型

    熱烈な阪神ファン。
    囲碁・将棋の大フアン、スポーツ大好き、
    太宰治に傾倒、自らも人間失格を自称、クラシックも好き、気の多い多趣味な、多酒味男、政治の腐敗に喝!

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